大阪営業所 奥田 庸雄

1. まえがき

年々増加する航空需要に対処するため、昭和61年から工事が進められていました新広島空港が、本年10月29日に開港します。
新空港は、現空港が市街地に隣接するのに対して、後述するように山間部に設置され、さらに空港周辺は公園緑地として利用されるなど、 周辺地域への環境対策が図られています。
また、広島県では、空港の設置による環境影響を把握するため、航空機騒音、大気汚染等の環境監視を、開港に併せて実施します。
当社は、この環境監視事業の一環として実施する空港周辺における航空機騒音の常時監視測定システムの設置に協力させていただきました。
ここでは、新空港と航空機騒音観測システムの概要について紹介させていただきます。

2. 新広島空港の概要

第四次全国総合開発計画において、多極分散型国土の形成、地方の国際交流機能の充実のため、 国際航空定期便の就航する空港の地方展開を進めるとされており、この中で新広島空港は、中四国地方の拠点空港として位置付けられており、 2500m滑走路を有する本格的な空港で、その概要は、表-1に示すとおりです。

表-1 新広島空港の施設概要
設置者 運輸大臣(第二種空港)
位置 広島県豊田郡本郷町用倉
標点の位置 北緯 34゜25'58"
東経 132゜55'29"
標点の高さ 331.1 m
着陸体の等級 B級
舗装体の設計強度 LA-1
管理面積 約 167 ha
着陸帯 長さ 2,620m × 幅 300m
滑走路 長さ 2,500m × 幅 60m
方位 北90゜00'00"(真北)
誘導路 総延長2,783m×18m及び30m
エプロン 95,600m2
航空保安施設 VOR/DME、標準式進入灯 等

新広島空港は、広島県のほぼ中央に位置しており、図-1に示すとおり、 山陽自動車道の河内及び本郷の各インターチェンジから接続される県道新広島空港線及び県道新広島空港本郷線の2本の道路でアクセスされます。

空港周辺のアクセス図
図-1 空港周辺のアクセス図

新広島空港は、竹林寺用倉山県立自然公園に隣接するなど、自然環境に恵まれた場所に立地しています。
さらに、空港周辺を「庭園空港都市」として、大規模な野外レクリェーション施設を中心とした県立中央森林公園として約287haを整備しています。 公園施設としては、1994年に開催されるアジア競技大会の自転車競技の会場となるサイクリングロードや日本庭園など、表-2に示す施設が配置されます。
また、空港のターミナル地域周辺を「ひろしまエアポートビレッジ」として、ホテルなどの施設が設置されるなど、 県立中央森林公園と一体となった、広島の空の玄関にふさわしいまちづくりが進められています。

表-2 中央森林公園の主要施設の概要
施設名概要備考
日本庭園 約6ha 築山池泉回遊式庭園
芝公園 約7ha ピクニック及びイベント広場
サイクリングロード 1周約13.5km 国際自転車競技コース
体験の森 約18ha 生産の森、世界の森等
湿性植物園 約0.2ha ショウブ園、スイレン池
多目的広場 約2ha 芝グランド
オートキャンプ場 約20ha オートキャンプ協会4星認定
(注)多目的広場、オートキャンプ場は将来計画

なお、滑走路を2500mから3000mへの延長化については、第6次空港整備5箇年計画に組み入れが決定しており、 延長が実現すれば、アメリカ西海岸やシドニーへの直行便が就航可能となります。
さらに、24時間運用も検討されており、ビジネス、観光などの人的交流だけでなく、 航空貨物などの物流も一層増加することが予想され、国際交流や地域経済の活性化に大きな期待が寄せられています。
また、新空港の正式名称は、広島空港となり、これまでの空港(現空港)は広島西飛行場と名称変更されます。

3. 航空機騒音観測システム

広島県では、新空港周辺の航空機騒音を監視・測定するためのシステムについて、開港に合わせて整備され、 当社は、その設置に協力させていただきました。

システムは、常時測定システム(固定局)、可搬型測定システム(移動局)、データ収集・処理システム(中央局)の3つから構成されています。

(1) 常時測定システム(固定局)

常時測定システムは、当社の航空機騒音自動監視システム、DLー1420を基本に構成し、 本年度は、空港西側の広島県豊田郡本郷町船木に本郷局、空港東側の同賀茂郡河内町入野に河内局の2局を設置しました。

固定局(本郷局)の写真
固定局(本郷局)

A. 機器構成

常時測定システムの機器構成は、図-2に示しますが、それぞれの特徴は次のとおりです。

ア 騒音計システム
航空機騒音から環境騒音までを測定するため、ダイナミックレンジの広い精密騒音計を使用しました。

イ 航空機騒音識別装置
他の騒音と航空機騒音をより正確に識別するもので、騒音情報と航空機が発する電波の電界強度の情報を複合して解析するものです。

ウ 気象観測システム
騒音測定を補完するため、風向、風速、温度、湿度の測定を行います。

エ データ収録システム
収集したデータの処理、蓄積、転送を行います。なお、測定データは、 RAMメモリー、フロッピーディスク、RAMカードに記録・保存されるほか、プリンターにも印字されるため、二重、三重の保護が図られています。

オ 無停電電源システム
不意の停電や瞬断に対処し、停電後も3~4時間は測定を継続します。なお、さらに長時間の停電では測定を中断しますが、 停電復旧後、自動的にシステムが再稼働し、測定を行います。

カ 測定局舎
今回の2局については、設置場所が屋外であったため、測定システムを収納する局舎を含めて設置しています。 局舎は、全てステンレス製で、局舎の上部に、騒音計マイクロホン、気象観測計等を取り付けています。

B. 測定機能

ア 航空機騒音測定
騒音が任意の設定レベルを設定時間継続して超過し、かつ、航空機騒音識別装置により、 航空機騒音と判別された場合、騒音ピークレベル、ピーク時刻、継続時間等のデータの収集を行います。

イ 環境騒音測定
航空機騒音と判別された以外の騒音については、環境騒音として常時測定し、10分間ごとにLx、Leqを算出、記録します。

ウ 気象測定
定常的に気象状況を測定し、10分間平均した後、記録します。

C. データ通信

測定したデータは、1日分をとりまとめて、データ処理システムへ一括送信されます。
なお、通信は一般の電話回線を通じて行われますが、河内局については、 一般の電話回線工事ができなかったため、無線電話を用いて通信しています。
また、この通信回線により、データ処理システムから測定パラメータの変更が可能ですし、 測定局側での停電情報や故障情報を自動送信することができます。

固定局構成図
図-2 固定局構成図

(2) 可搬型測定システム(移動局)

任意の地点において短期間の測定を行うための移動局については、当社のデータ収録システム、DL-80/PTを使用しました。
測定機能としては、気象観測を除いて固定局と同等の性能(航空機騒音識別装置を含め)を有しており、

ア 航空機騒音測定
イ 環境騒音測定

が、固定局と同じフォーマットで実施、記録されます。
なお、測定データは、プリンターに印字記録されるほか、RAMカードに記録され、 データ処理システムのカードリーダーにより読み出され、固定局データと同様の集計処理を行うことができます。
また、電源が得られない場所でも、外部バッテリーにより連続7日間の測定を行うことができます。

(3) データ収集・処理システム(中央局)

中央局では、一般公衆回線を通じて各固定局のデータをオンライン収集を行うとともに、データの集計・処理を行います。

ア システムの構成

システムの構成システムは、パーソナルコンピュータ(NEC PC-982)を中心に、 ハードディスク、プリンター、プロッター、移動局データを読み出すRAMカードリーダー、オンライン用の通信モデム等から構成されています。

イ データの収集

中央局では、各固定局で収集したデータを1日分まとめて一括自動受信します。
なお、収集したデータは、ハードディスクに記録されるとともに、各固定局の航空機騒音、 環境騒音及び気象データが、時報として自動印字されます。
移動局で収集したデータについては、RAMカードから読み取り、固定局データと同様にデータ処理が行えます。

ウ データの集計・処理収集

データの集計・処理収集したデータについては、WECPNL、環境騒音等の集計処理のほか、

ピークレベル(ランク別)
騒音暴露時間
騒音発生回数

等の集計処理を、月、年等の単位で実施できる機能を有しています。 また、便名、機種等の飛行実績データとリンクできる拡張性があり、各種の統計解析を行うことができます。

4. 謝辞

今回、このような機会を与えていたいただき、種々の資料を御提供いただいた、 広島県県民生活部環境保全課、県保健環境センター、県空港港湾局空港対策課及び県新空港地域整備事務所の皆様に厚く感謝いたします。

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