松下 周朗

松下  周朗

昨年、東京銀座である絨毯メーカーの展示会を見る機会がありました。

そこには、敷物としての絨毯のほか、鑑賞用、装飾品として壁掛け絨毯が数多く展示されていました。 それらの絨毯は著名な絵画を織り込んだもので、実際の油絵と見紛うほど精彩で端麗なものとなっており、 非常に感動したことを覚えています。

かつて紡績の染色部門に従事した経験から、 美術品ともいえるそれらの製品を完成させるためには並大抵のことでなかったことが思い浮かばれます。 それは、素材を選ぶことから始まり、色感、染色、織出しまで、 芸術的な感覚・目を前提とした大変な技術的改良が必要であったと想像されます。 また、これは、一人二人の力で出来るものでなく、多くの工程での知恵が集められ、 「すばらしいものを作る」という総意が結集された結果であるとも言えます。

このことは、音の世界にも言え、例えば1枚のレコードCDを作ることを考えれば、 まず、音楽素材を提供する作曲者、演奏者があり、楽器や音響機器を作る者、スタジオ等の場を作る者などがあって、 初めて、人の心に感動と潤いを与える作品が出来上がります。

私は、音空間を提供する製作スタッフの一員として、与えられた責任を果たすだけでなく、 かかわり合う全ての一人一人が、感性を磨き、技術力を高め、新たな創造に立ち向かうことで、 常に「すばらしい作品」が残せると考えています。

また、日本音響の協力会社という立場では、それぞれの分野において、無駄を無くし、 効率を上げるなどの具体策も必要でしょうし、さらに、互いの信頼感を高め、気持ち良く仕事の出来る環境作りも大切になります。

人間のより美しいものを求める感性は永遠であり、音もまた、研ぎ澄まされた感性を基に追求されなければなりません。

経験に裏打ちされた技術力を縦糸に、携わる人の輪を横糸に、清らかで、澄んだ、 心に残響する音空間を織りあげていくことが、私の夢であり、実現を目指すものであります。

【松下 周朗氏】
1925年生まれ。米沢工専卒。日東紡績(株)、 インドネシアサンドラテックス社、日東関西メンテナンス(株)を経て、現在、日東音響工事(株)社長。 また、音友協会(当社の協力会社の会)会長。