音響学会、佐藤賞受賞論文について

技術部 中島 弘史、鶴 秀生

1. 受賞した論文の概要

佐藤論文賞は音響学会学会誌(英文、和文)において発表された2年分の論文の内で、毎年2編以内を選出するもので今回は103件の中から選ばれるものです。 この賞は、昭和35年に佐藤考二博士からの寄付金を財源に設立されたものです。大学の先生やNTT等の大手研究機関の人が書かれた論文が受賞することが大半を占める中、 今回のように弊社のような中小企業の社員が共著者として受賞した意味を大変意義深いものと考えております。

受賞を受けた論文は、日本音響学会誌 59巻12号(2003年)の713~722ページに掲載された「超高速移動音源に対する防音壁の遮音量算出に関する研究」 に対するものです。筆頭の著者は、交通安全環境研究所の緒方正剛様で、共著者として鶴、中島、九州大学の藤原恭司先生が加わり、 合計4人で行ったものです。論文の内容は、題目のとおり新幹線などのように高速で移動する音源に対する防音壁の遮音量算出に関するものです。 防音壁の遮音量は、通常は静止した音源を対象に算出されます。そのため遮音量は、移動する音源、特に高速移動音源に対しては、 大きく変化する可能性があり、この論文では、実際にどの程度の速度で、どの程度遮音量が変化するのかを明らかにしています。 また、厳密な方法でシミュレーションを行うと多大な計算量がかかるため、簡易的に移動音源に対する防音壁の遮音量を算出する方法についても記述しています。

参考図:2次元境界要素法の積分変換を用いた鉄道軌道近傍での1000Hzでの音圧分布
剛壁での分布
1 剛壁での分布

吸音での分布
2 吸音での分布

2. 共同執筆の経緯

交通安全研究所の緒方様は、鉄道騒音関係の多くの研究をされてきました。実際の測定やトンネル内の吸音板の開発、 防音壁関係の多くの模型実験ならび実測と交通安全環境研究所での鉄道関係の騒音振動に関して中心的な役割を果たされてきました。 鉄道の音源は新幹線を代表するように高速で移動するものが多く、そのような移動音源に対して正確な実験や理論解析を行うことと、 より簡易的な形でどう表現するかを日々考えておられました。

また藤原恭司先生は九州芸術工科大学時代から九州大学の現在においても建築音響の教育研究を精力的に推し進められています。 また干渉型防音壁の開発等実用分野においても輝かしい業績をお持ちです。その藤原先生のもとで緒方様は社会人ドクターコースに在籍されていて、 鉄道騒音関係の理論、実験関係のより深い研究をされていました。藤原先生の研究に関する着眼点は斬新で、 基礎研究においても実践的な騒音対策においても多くの点で参考になります。その藤原先生も緒方様と同様に移動音源の精密な理論解析、 実験に興味をもたれていたことが今回のテーマ設定に大きく関与してました。

一方弊社で多くの音響に携わる仕事において、騒音対策は多くの業務となっておりました。 騒音の測定や工事で対策すること以外に、対策の提案、基礎理論の考察、模型実験等さまざまな業容を受け持たせてもらっていました。
その基礎的な研究の一環として、移動音源の可聴化シミュレーション(2000年9月)の研究発表や境界要素法を用いた多くの数値解析を手がけて参りました。 特に今回のテーマに最も関係の深いものは、2001年秋の音響学会において発表を行った、境界要素法を用いた鉄道騒音の予測と移動音源に対する境界要素法を用いた解析の2件でした。 同じ学会の同じセッションにおいて、当時九州芸術工科大学の藤原先生のもとで研究をされていた井上瑞希様が点音源に対する吸音エッジの効果についての発表をされました。 これらのテーマはどれも2次元境界要素法解や数値解を3次元空間に対する解に厳密に変換する方法を用いてました。 このできごとは将来の共同研究を暗示していたのかもしれません。

そのような縁があって、緒方様、藤原先生と今回の研究テーマについての議論を弊社の鶴と中島が多く行うようになりました。 解析解、数値解、実験との比較、最終結果と、多くの知恵と労力を費やし論文の形にまとめることになりました。 これらのことが可能だったのは、多くの人の叱咤激励の賜物といえるでしょう。

3. 現在の研究開発活動

もともと弊社はスタジオや無響室などの実験設備工事から始まり、その後、実験設備の計測等を行う部門として技術部が生まれました。 技術部は、現在コンサルタントやシステム開発を行う部門からなります。今回の受賞のきっかけとなった2000年の時点では、 我々はシステム部門に属し、シミュレーションやソフトウェア開発を主に行っておりました。当時は研究といえば社内的なテーマが主であり、 実務が忙しい中、研究を進める事は困難でした。このような状況下の中、このテーマは外部との共同研究でしたので実務として進める事ができました。 研究開発を希望していた私(中島)にとっては大変ありがたい機会でした。その後、今回のテーマに関する学会発表などを通して、 弊社が研究開発を行う技術を有することをアピールすることができました。現在では、我々は研究開発部門としての独立を進める中、 主に鉄道や自動車、ロボットなどの分野で共同や委託の形で複数の研究を進めております。

参考文献

  • 鶴,中島,高橋,音響学会講演論文集,667-668(2000.9)
  • 井上,藤原,音響学会講演論文集,823-824(2001.10)
  • 山中,鶴,安部,北川音響学会講演論文集,825-826(2001.10)
  • 中島,鶴,音響学会講演論文集,827-828(2001.10)
  • 中島,鶴,緒方,音響学会誌60巻12号,717-726(2004.12)