マイクロホン移動装置あらかると

技術部 松尾 浩義

1. まえがき

種々の測定・計測という分野に携われている方なら、そのシステムの自動化や省力化について、 常に頭を悩ませておられることと思います。
特に、音響測定の分野においては、空間上の多くの点にマイクロホンを移動させることを繰り返すなど、 労力と根気の必要な作業を行っています。
マイクロホンの移動装置の開発は、これらの作業をいかに省力化し、測定精度を向上させるかという目的を持って生まれました。 (詳細は、本誌No.1の「マイクロホン移動装置開発までの経緯」をご参照ください。)これまで、微力ながらも、 こうした測定現場のニーズに対して、少しずつ御手伝いをさせていただきながら、今日に至ってまいりました。
最近では、我々がご提案させていただくもの以外にも「こんなことが出来ないか。こういう事を考えてくれ。」 といったお客様からの特別なご要望も増えています。
そこで今回は、ごく一部ではありますが、移動装置の具体的な使用例を全体の構成と測定内容とを併せてご紹介させていただき、 さらに、特別仕様の「動くもの達(移動装置)」をも登場させてみたいと思います。今後、皆様が行われるシステム構築の参考にしていただけば幸いです。

残響室法吸音率測定装置の図
図-1 残響室法吸音率測定装置

2. 省力化のためのシステムプランニング

計測システムを構築する際に考えなければならないことがあります。当然のことですが、トラバース装置だけでは何も出来ません。 計測器やシステムコントローラやその周辺機器、無論使用する部屋(無響室などの計測室)も必要ですし、 さらに計測ソフトウェアも必要になるはずです。しかし、最も必要なのは、何を、何のために、 どの様に測定するのかといった『システム仕様』だと考えられます。この『仕様』があって初めて、 使用機器や方法などの具体的なシステム構築が、必要コストを含めて検討できるものと思っています。

(1) 吸音率の測定

例えば、自動車や建築内装材料の吸音率を求める場合には、残響室法(JIS A 1409)で行なう方法がありますが、 この方法ですとかなり大きな試料が必要となります。
しかし、その測定がJIS規格による必要がないならば、小さな試料で測定を行うことができます。 それは、図-1に示すとおり、小型残響室内に吸音体とマルチ音源を設置して、受音側の位置を小型のマイクロホン回転装置で制御し、 信号音を取り込むことにより、コンピュータ制御による小寸法パネル(実用的です!)残響室法吸音率測定装置を構成することができます。 なお、ここで使用する回転装置は小型で天井面につけるタイプですので制御にポテンションメータを用いた物を特別に製作しています。 回転速度を変えることは出来ませんがトルクは十分ありますので小型の残響室(箱)での使用に向いています。

(2) 透過損失の測定(残響室ー残響室法)

建築音響の分野で遮音性能を示すパラメータの一つに音響透過損失データがありますが、 その測定方法として規格化されているものの中に残響室-残響室法があります。この方法で、 隣り合った2つの残響室間の隔壁に取り付けられた試料の透過損失(TL)は、 音源側残響室と受音側残響室の平均音圧レベル差と受音側残響室の残響時間によって算出された吸音力によって求められます。

パネル加振方法の図
図-2 パネル加振方法(空気加振)

測定点は基本的に3~5ポイント程度ですから移動装置もMT-3000型の様な3次元の位置制御は不要で、 もっとシンプルな機種のローテーター(MR-1000)でその仕様は十分に満たします。マイクも2本で済みますから校正の手間も僅かです。 1台ずつそれぞれの残響室に設置して、音源操作やデータ取り込み、分析も含めてコンピュータで制御してしまえば、自動透過損失測定システムの完成です。

残響室における測定の図
図-3 残響室における測定

(3) 透過損失の測定(残響室ー無響室法)

それでは残響室-無響室法はどうでしょうか。ここでは音響インテンシティー法による遮音測定を用います。 この方法だと試料の部位ごとの透過パワーを近接音場でとり込みますので遮音欠損箇所の探査等に応用が可能です。 音源側(残響室)の平均音圧レベルは、またマイクロホンローテーター(MR-1000)を利用することになりますが、 受音側(無響室)は多点の測定ポイントを必要とすることになりますのでMT-3000クラスのマイクロホン移動装置が必要です。 3次元の移動が不要であれば、MT-2000の様なポータブルタイプでも可能です。

なお、最近、当社で施工した無響室では、受音側(無響室) の開口部にTLの測定をしない場合は吸音楔がついた吸音壁が電動で蓋をする構造になっています。

残響室ー無響室法の測定
図-4 残響室ー無響室法の測定

音響インテンシティ法について、本誌の前号(No.3) で紹介しましたインテンシティ・プローブ・ローテータMTTG Ver.2.0を使用しますと1組のペアマイクロホンをモーター制御によって図-5の様に回転させますので、 ペアマイクロホンを3方向に直交させる事が可能となります。この時、音響中心はずれませんので、 一つの測定ポイントでの3次元インテンシティ測定の自動化が可能となります。 もちろんこのMTTGはマイクロホン移動装置MTシリーズに搭載することが出来ますので、より高レベルの計測システムが構成出来ます。

なお、当社の音響放射特性計測システム「SRM」ではMTTGのコントロールは標準装備されております。 ご用命いただければデモも可能ですのでぜひご連絡下さい。

MTTGにおけるマイクロホン回転位置
図-5 MTTGにおけるマイクロホン回転位置

(4) 音響パワーレベル

次に音響パワーレベル測定について考えてみましょう。例えばJIS Z 8732の測定方法ですと音源を取り囲む閉曲面を設定してから、 面上の音圧を測定し、間接的求められた音の強さにより面全体に積分することで音響パワーを求めることになります。 この場合マイクロホンは音源中心を向きながら球面上の移動が要求されることになります。

この測定にはMRSー3を利用します。MRS-3は円弧軌道を移動するタイプで、パワーレベルの測定が簡単に行えます。

さらに、測定室内を自由に移動できる MTSタイプ(無響室などの天井取付型)のトラバース装置とMTTGを組合せることにより、 あらゆる閉曲面(直方体も可)の軌跡をたどる事も可能となります。

円弧トラバースの図
図-6 円弧トラバース

3. 特殊な移動装置

(1) 電磁加振

もう少しおもしろそうな装置をご紹介しましょう。 自動車等のパネルからの放射音対策に使用されている制振材の制振効果を測定する装置がそれです。

パネル加振方法の図
図-7 パネル加振方法(機械加振)

電磁加振法による測定は残響箱に設置された非接触電磁型加振器を加振源として使用します。 試料の取り付け・交換はカセット式なっており、引き出されたテーブルにマウントされた後、残響箱と無響箱の隔壁に格納されます。 のち試料周辺固定のため試料枠は上部ユニット及び下部ユニットにはさみこまれるような形で固定されます。この一連の動きはボタン操作で可能です。

電磁加振装置の図
図-8 電磁加振装置

また、無響箱側には水平2軸型のマイクロホン移動装置が設置されており、 電磁加振法での受音点(試料の放射音響パワーを音響インテンシティ法により求めます。)の移動ができます。

さらに、残響箱には複数の音源用スピーカと小型のマイクロホン回転装置も取り付けられており、 音響加振による測定(前述の小寸法パネルの音響透過損失測定装置)も可能となります。

(2) 加振器トラバース

試料に接触して加振させる方法に使用できるトラバース装置もあります。 この装置は試料までの距離のコントロールもできる様に3次元の位置制御が可能になっています。 同時に2台までの加振器を動かすことができますので任意位置によるパネルのモードの励起が可能です。

また、加振器を試料板に押し当てる力を一定に制御するために先端に非接触型のセンサーが取り付けてあり、 その距離をもホスト側でモニタリングができるようになっています。受音側にはマイクロホン移動装置が設置され、取り込みも自動化されています。

加振器トラバースの写真
図-9 加振器トラバース

4. さらに・・・

レーザー変位計のようなセンサーの移動制御も可能です。このようなタイプになりますと、装置の位置制御も、 本体の剛性もマイクロホン移動装置と比較すればより高い精度が要求されます。そのため重量もあり、機械的なイメージが強くなりがちなのですが、 あくまでアルミレール本体のタイミングベルト方式という基本のスタイルを残しながらパワーアップを施しましたので、非常にスマートな仕上がりになりました。

他に、お客様からの要望により移動制御の対象としたものは、風速計、スピーカー、カメラ、壁、天井、さらに、 指(測定物のスイッチの遠隔操作にマニピュレータとして使用)などがあります。

今後も、色々なものを動かしたいと考えておりますので、ご要望をお寄せ下さい。

レーザー変位計の写真
図-10 レーザー変位計

5. 夢は膨らみ・・・・

システム構築の基本となる『仕様』については、機能や効率を追及するだけでなく、 夢や遊び感覚も盛り込む必要があるのではないかと思います。マンガチックな発想から、すばらしいものが生まれることもあると思います。 マイクロホン移動装置もそんな中から誕生したのです。

オートメーション化はあらゆる場所で確実に進んでおります。データ処理も種々のアプリケーションソフトやネットワーク化、 ISDN等の情報通信技術により、より高レベルな集中管理のなかでの解析・検討が行われると考えられます。 そのような流れの中で、システム構築のお手伝いをさせて頂ける、必要かつ十分なインターフェイスを、今後も提供していきたいと考えております。