建築音響上の問題点

技術部 戸口 健治

1. まえがき

私の部署は、技術部の中でも主に騒音測定や対策・コンサルタント、音響設計等を行っているところで、 当社の工事物件だけではなく、他社が設計施工された建物で生じている問題点(クレーム)などを扱うことが多々あります。(むしろ、その方が多い。)

騒音でいえば、マンションでの上下左右の隣戸からの生活騒音や事務室の設備騒音、電車騒音の対策、 工場や店舗から周囲に漏れる騒音...など昔も今もあまり変わっていませんが、その中から最近、 建築音響に係わる騒音の例を幾つかあげてその問題点を述べさせていただきたいと思います。

ただし、以下の現象とその原因の考察については、あまり数多くないサンプルから推測したものであり、 厳密な実験や検証を加えたものでないことを前もってコメントしておきます。

2. フリーアクセスフロアの問題

ここ数年でよく使われるようになった二重床のフリーアクセスフロア(略してフリアク)があります。 もちろん、もっと以前からフリアクはありましたが、使用される建物の種類は限られていたため、音響的に問題となることはありませんでした。

つまり、放送局でいえば、副調整室や主調整室の床はフリアクでしたが、 それらの室の間をつなぐのは天井裏のケーブルラダーが多かったと思います。

それが、最近では、ほとんどの室の床や廊下までをフリアクとすることで、 室間を自由にフレキシブルに通線できるようにしたために昔にはあまり問題とならなかった現象が生じています。

それは、コンクリートの直床が重く硬いのに対して、フリアクの床は、 その構造がコンクリートスラブの上に一定間隔で束(つか)を立ててアルミやコンクリートの成形板を乗せていくようになっているため、 束がコンクリートスラブを点加振する形でフリアク床の振動を伝え、コンクリート直床に比べて騒音伝搬しやすくなるという現象を経験したことがあります。

例えば、RC壁や石膏ボードの多層壁といった高性能の遮音間仕切りをつくっても、 フリアク床があったために125、250Hzあたりの周波数で期待したほどの遮音性能が得られないことがありました。

フリアクの騒音伝搬の図
図-1 フリアクの騒音伝搬

また、廊下をフリアクとしますと、当然のことながら人が歩いたり、場合によっては走ったりすることがありますが、 廊下がコンクリート直床の場合に比べてそういう音が聞こえやすくなります。

某放送局の例では、フリアク床の廊下に面して、当社が施工した完全浮き構造のスタジオがありましたが、 実験的にハンマーでフリアク床とその下のコンクリートスラブ面を打撃したところ、スタジオ内での騒音は、もちろん、 直接つながっているコンクリートスラブを打撃した方が音は明瞭に聞こえますが、63Hz,125Hzに関しては逆にフリアクを打撃した方が大きくなっています。

また、極端に人が跳びはねた場合、31.5Hzで卓越しましたが、 フリアク床の方が(フリアクを撤去してスラブ上を跳んだときに比べて)10dB程度大きいという結果が出ました。

石貼り工法の浴室間の遮音性能(上下階)の図
図-2 石貼り工法の浴室間の遮音性能(上下階)

ただし、このスタジオの場合でも、通常の歩行音はNC-15を十分に下回っていたことを我が社の名誉と信用のために強調しておきたいと思います。

なお、同じような床でも木製根太の二重床の場合にはこのような顕著な現象はみられませんので、 その材質や工法、束のピッチや高さなどが関係しているものと想像されますが、今後の検証を待ちたいと思います。

3. 石貼り(乾式)工法の問題

GL工法が遮音上好ましくないのは古くからよく知られており、 今ではマンションやホテルの戸境壁に使われることは滅多にありませんが(外壁には今でも使われていますが)、 GL壁に似た工法として高級な仕上げの一つとしてよく使われている石張り(乾式)工法があります。 これも石を鉄筋に引っかけて裏はGLボンドで点圧着するという工法であるため、共鳴透過現象を起こしやすいという特徴をもっています。 ビルのエントランスホール等に使われる場合にはあまり問題にならないのですが、 例えば、特別なマンションやホテルでは高級感を出すためにわざわざ石張りのバスルームとして声や給排水音が筒抜けになってしまうこともあります。(図-2参照)

4. 吸音衝立の効果

今まで述べたのは、俗にいう「汚い音」を如何に制御するかであって、それとは別に「きれいな音」をつくり出すことも我々の仕事です。 ここでは私が経験した特異な例を最後に一つ紹介したいと思います。

相談を受けたのは某リハーサルスタジオで、既に完成し、引き渡しを待つばかりでした。 しかし、竣工間際に施主から「そこで音取りができるように」との指示があり、 ほとんど反射性の仕上げを行っていたスタジオをどう吸音処理するかが問題になりました。

スタジオは、8mW×10mL×7mH程度の矩形の室で、壁はクロス貼り、床はフローリングで、 天井だけがダクト等が露出のため、幾分吸音性となっていました。 そこで、まず、H≧3.5mの壁を3面吸音(グラスウール50mm直貼り)したところ、 吸音前より残響時間が長くなり、青くなってしまいました。(1.7秒→2.5秒/500Hz)

室の響きとしては前よりフラッターエコーが目立つ感じで、 下の方の壁も吸音しなければさほど残響時間は変わらないものとは予想していましたが、長くなるとは思いもよりませんでした。

ただ、残響時間が変わらないことを予測して吸音衝立パネル(3.6mW×1.8mH;グラスウール50mm直貼り)もいくつか製作していましたので、 それを2枚づつL字になるように壁の2面に置いたところ、残響時間は2.5秒から0.6秒(500Hz)に激減しました。(図-3参照)

某リハーサルスタジオの残響時間の図

図-3 某リハーサルスタジオの残響時間

吸音衝立有り無しの測定結果から単純にそのm2当りの吸音力を計算すると、ほとんど1(100%の吸音)ということになり、 室の全表面積に較べてかなり小さな吸音衝立でも、フラッタ-エコーを防止するように有効な配置をすれば、 十分な吸音力を発揮することが実証できましたが、逆を言えば、 いくら吸音面を多くしても音響障害を生じる部分を残していては計算通りにはいかないことが実感できました。 (尚、吸音衝立の位置によっては0.2~0.3秒程度の差が出ました。)

5. あとがき

最近、ビルの複合施設としての雑居化や鉄骨造による高層ビル化、また、新しい建材の開発普及によって、 昔ならばコンクリートの箱として考えられていたものが、かなりその特徴を変え(られ)てしまうようなことがあって、 随分思いがけない騷音問題を持ちかけられることがあります。(遮音的には華奢になってきた印象があります。)

我々もコンサルタントという立場(職業)からむげに「できません。なんともなりません。」とは言いにくいですが、 実際、完成後ではなんともならないこともあることは事実です。そのためにも、計画当初から音響的に心配されるようなことがあれば、 早めに声をかけていただければと思います。