音響解析のためのコンピュータシステム

技術部 堤 正利

1. はじめに

当社がコンピュータを使用するようになってから十数年程になります。 当初は現場での測定の際に、または持ち帰ったデータの分析に測定器をコントロールして作業を自動化するためにコンピュータを使用していました。 このとき使用していたシステムのソフトウェアは自分たちの手で制作していました。 やがてこのような測定器をコンピュータでコントロールする技術がお客様に認めていただけるようになり、 現在では音響・振動計測のシステムを販売するまでになりました。
当社がコンピュータを中心とした計測システムを扱うようになってから日も浅いのですが、 今までに社内で利用してきたコンピュータシステムについて御紹介したいと思います。

2. 当社のコンピュータシステム利用の変遷

コンピュータシステムの変遷と言いましても私が入社してから現在まで当社で使用または開発してきたシステムの話に限らせていただきます (約9年前です)。その頃使用していたコンピュータは、計測器のコントロール用としてHP社のHP9816、9826、シミュレーション計算用としてHP9000/540、 DEC社のPDP11 でした。HP9816、HP9826はとてもコンパクトなボディで可般性に優れていましたし、 そしてなにより計測制御の強力なHP-BASICが走っていたので現場での計測器コントローラとして最適なマシンであったと思います。 今でもHP9816は現役で活躍しています。また当社が開発してきたシステムのほとんどがこのHP-BASICでプログラミングしており、 そのHP-BASICにおける制御機能の高さと信頼性はお使いになった方でしたらご存じのことと思います。
一方のHP9000/540とPDP11は、工場騒音や録音スタジオ・コンサートホールのシミュレーション計算などの計算パワーを必要とする用途に利用していました。 現在販売しています「真耳」システムの原型に当たる音感トレーニングシステムをPDP11で開発していました。
またHP9000/540では、OSにUNIXが搭載されていてマルチユーザ・マルチタスクの環境で使用できその計算パワーと扱える配列の大きさを頼りに、 3次元でのホールのシミュレーションソフトウェア「ThreeD」と、 オフィス内にコンピュータを設置した時にコンピュータが発生する騒音の分布を予測するソフトウェア「Prinss」をこのP9000/540で開発しました。 これらのソフトウェアでの形状入力方法は、図面から入力する平面のすべての頂点座標を拾いながら入力する方法を採っていましたが現在の「CONCERT」 というシミュレーションソフトウエアの原型になっています。
HP9000/540の2年後に導入したHP9000/330は、当社で初めてのエンジニアリングワークステーション(EWS)でありました。 このコンピュータでは、16ビットのAD/DA装置をGPIOインターフェースを介して接続し、 音声信号をコンピュータに取り込んでフィルタリングを行って再生するという音の加工処理をするシステムとして利用しました。 このシステムをベースにして音の評価実験用の音源作成や応答集計の機能を持たせた商品として現在の「真耳」システムがあります。 ここでも開発言語には、HP-BASICを使用しています。 HP9000/330からさらに2年後にHP9000/540のリプレースのために、HP9000/340、370を導入し、この時初めて、 LANを設置してコンピュータ同士を接続して使用することになりました。370はUNIXマシンとして、 340はBASICマシンとして主に利用することにしましたが340でもUNIXを使用できるようにディスクレスシステムとして立ち上げるためにLANの設置を行いました。 また、UNIX上でもHP-BASICが利用できたので370では、シミュレーションソフトの開発だけではなくBASICによる計測制御用のシステム開発にも利用していました。 この頃からマイクロフォントラバースを利用した自動計測システムのアプリケーションをお客様に御提供し始めるようになりました。
また、コンピュータだけではなくFFTアナライザやリアルタイムアナライザ等の高機能な測定器も導入して、 多様な音響・振動解析ができるシステムへと発展してきました。
現在システム開発で使用しているコンピュータシステムは、UNIXワークステーションが7台あり、 これらは主にOSSシステムや64チャンネルデータ収録システム等の多量なデータを解析するシステムの運用・開発に使用しています。 また、7台のうち3台はUNIX上のHP-BASICを使用して計測制御用のシステムの開発に使用しています。
ワークステーションの他にもお客様にニーズにあわせてパソコン(主にNEC社PC-9801シリーズ)を使用した計測システムの開発も行っております。 パソコンのシステムを手掛けるようになったのは、本誌No1でご紹介いたしました航空機騒音監視システムの開発を行い始めたころからです。 パソコンを利用するシステムの場合では、 計測器をパソコンが制御するよりもいろいろなインターフェースカードを増設してパソコン自身に計測器の機能を持たせるようなシステムがほとんどです。

パソコンを利用した計測システム
図-1 パソコンを利用した計測システム

3. 用途別に構成するコンピュータシステム

当社からお客様に御提供しているシステムのラインナップは、パソコンを中心としたシステム、 HP社のBASICワークステーションのシステムとUNIXワークステーションのシステムの3通りの組み合わせに分かれております。 そしてそれぞれのコンピュータシステムには次にお話致します長所・短所があると思います。
パソコンを使用したシステムの特徴としましては、本体や周辺装置が安価であり、そして選択できる周辺装置の種類が豊富であることです。 例えば音声信号を取り込むためのAD変換のボード等はかなりの数が出回っています。 しかしその一方では、Aという装置とBという装置を同時に接続していると動かないといったこともよくあり、 システム構成で頭を悩ますことも少なくありません。
パソコンのシステムでは、ほとんどの場合OSとしてMS-DOSを使用していますが、 メモリが640Kバイトの制約のために大量のデータ処理を行うシステムを考えたときに、パソコンではシステム構築が不可能になる場合もあります。 しかしここ数年の間にEMSやXMSなどのメモリ管理機構がMS-DOSで利用できるようになり、 以前よりはメモリの制約を受けずにシステム開発ができるようになってきた思います。それでも大量のデータ処理が必要な場合は、 一度MS-DOSのアプリケーションで外部の信号を取り込み、 ハードディスクなどの記憶装置にデータを保存しておいてパソコンのOSをOS/2のような大量のメモリエリアを扱えるものに入れ替え、 データ処理のアプリケーションをOS/2上で動かしてみることも考えられると思います。
HP-BASICワークステーションの特徴は、GP-IBインターフェースを介して測定器を接続した時に、豊富な制御機能が提供されていることです。 また、パソコンのBASICにはない強力なグラフィック機能も持っていて、 モニター上に表示したグラフ等はプログラムの一部を変更するだけでプロッターへも手軽に出力することができます。 パソコンのようにいろいろなインターフェースボードはありませんが、 GP-IBインターフェースを持つ計測器でシステムを構成する時のホストコンピュータとしては申し分ないマシンだと思います。
BASICワークステーションの短所をあげるとすれば、 プログラミング言語の処理方法がインタプリタなので実行スピードが遅いということとネットワークへの対応が不十分というところでしょうか。 しかし処理速度に関してはHP社が提供しているコンパイラを使用することで改善することができるようです。
UNIXワークステーションを使用したシステムは、その計算パワーを生かした複雑なシミュレーション計算に向いていると思います。 そして最近ではX-Windowシステムによるグラフィカルユーザインターフェースが整備されて操作しやすい環境が提供できるようになっています。

HP-BASICマシンによる計測システムの構成
図-2 HP-BASICマシンによる計測システムの構成

UNIXワークステーションを音響・振動分野での計測システムのホストコンピュータとして使用する上での短所は、 音または振動の信号をコンピュータに取り込むための周辺装置が少ないこととたいへん高価なことでしょう。 それでもUNIXワークステーションのいくつかのメーカーのものはGP-IBインターフェースを登載できる機種があり、 またLANを介して制御できる計測器も登場してきてUNIXワークステーションを計測システムのホストとして使用することの自由度が広がってきているように思います。
UNIXワークステーションの用途としては、やはりコンサートホール等の音響シミュレーション、工場・交通騒音のシミュレーションが挙げられます。 この分野では計算規模から大型汎用機が主に使われていましたが、 最近のワークステーションの驚くべき高速化と低価格化により実用性と導入のしやすさを持っているためワークステーションが使用されているようです。 特に高速化に関してはとどまるところを知らないように思います。 そして計算能力もさることながら高機能なグラフィックを持っているので視覚的な表現に活用することもできます。 例えば交通騒音のシミュレーションを行う場合などに、騒音源の移動と共にリアルタイムにコンターマップをアニメーション化することなどが考えられと思います。

4. 今後のコンピュータシステムについて

当社が御提供しておりますシステムのホストコンピュータは、ほとんどがパソコンまたはワークステーションです。 今日これらのコンピュータの取り巻く環境は時々刻々と変化しております。 パソコンの分野ではWindowsの登場と高速化によりワークステーションと比べても遜色ない処理能力を持ったマシンが販売されております。 一方ワークステーションの分野でもUNIX上でパソコンのWindowsアプリケーションがそっくりそのまま動作する環境が登場してパソコンとワークステーションの境界がなくなりつつあります。
このような使いやすいコンピュータ環境が登場してくることは歓迎すべきことではありますが、 私共が扱うコンピュータシステムに必ずしもプラスになるとは限らないように思います。その理由は、 特に計測システムを構成するときにコンピュータ単独で使用することは少なく、 外部からの信号を取り込むためにインターフェースカードや計測器等の周辺装置を接続・制御する場合がほとんどですから、 そういった周辺装置を制御するために特殊なプログラミングを行わなければならないからです。 また、便利なグラフィカルユーザインターフェースもその処理のためにCPUの能力のほとんどが使われ、 本来のデータ処理のためのパワーが奪われてしまっていると思うからです。 しかしこれらの新しいコンピュータ技術は、まだいろいろ改善の余地があるにせよ取り入れていくメリットは十分あり、 当社のシステムにも積極的に反映させていきたいと思います。

UNIXワークステーションによる計測システム
図-3 UNIXワークステーションによる計測システム

5. おわりに

今回の話の中では具体的なアプリケーションについて触れないできました。 本誌でこれまでにも当社のアプリケーションシステムについて幾つか御紹介したものもありますし、 またはこれから御紹介するものがあるかと思いますのでアプリケーションの詳しい内容につきましてはそちらの方の誌面に譲りたいと思います。 とりあえずコンピュータシステムを、当社がどのように音響・振動に関して利用をしているかを御紹介させていただきました。
まだまだ勉強不足のところがあり、コンピュータを活用しきっているとは言えませんが、お客様にとって魅力あり、 ご満足頂けるシステムを提供していきたいと思います。