壁面タイル自動診断システム

技術部 滑 裕美

1. タイルが頭を直撃!?

道を歩いている時に、「もし、建物のタイルが剥がれて落ちてきたら‥‥」ということを考えたことがありますか? 想像してみると少しぞっとしますね。しかし、起こり得ないことではないようです。実際に報告された事例は多数あり、 建物の保守や管理といった上での問題にもなっているそうです。

事故が起きる前に適切な処置をとらなくてはいけませんが、その前にどこのタイルが剥がれそうなのかということを調べる必要があります。 そのような調査を効率よく行うために、(株)熊谷組様により「壁面タイル自動診断システム」が開発されました。

システムは、タイルの剥離状況を音響解析により診断するもので、当社では、システムの音響解析部分について、お手伝いをさせて頂きました。

システム構成図
図1 システム構成図

今回、そのシステムの概要をご紹介させていただきます。

2. タイルと西瓜

さて、音響診断というと、西瓜を買う時にたたいて音を聴き、熟れ具合を判断するというのが、 身近な例としてよくあげられます。西瓜と同じように、タイルもたたくと剥がれ具合で音が違いますから、その違いを聴き分けて検査すればよいのです。

これまでは、仮設の足場やゴンドラにのってタイルをたたきながら検査する、という全くの人手と検査する人の耳に頼って行われてきました。 しかし、足場を仮設するにしてもゴンドラを設置するにしても費用は馬鹿になりませんし、高所作業になり危険を伴います。 さらには診断する人によって結果がばらつくことは避けられません。

西瓜でもハズレて悔しい思いをすることがあるのですから‥‥

3. 聴き分けのよい(?)装置

ということで、登場するのが自動診断システムです。タイルを機械がたたいて回り、その音を取り込んで、解析装置が剥離状況を判断します。 安全性のアップ、効率のアップ、そして結果のばらつきを少なくすることに一役買っています。

4. 壁面タイル自動診断システム

このシステムについて、少し詳しく説明させていただきます。

(1) システムの概要

システムは、図1に示すとおり、壁面を直接診断する台車部分と解析・制御部分から構成されます。

台車には、打音装置、収音装置及び送信機を携えられ、壁面を走行しながら、音響情報を送信します。

地上部の解析・制御装置では、その信号を捉え、リアルタイムに解析し、タイルの剥離状況を診断していきます。 同時に、パーソナルコンピュータに接続された制御装置を通じて、台車つまりタイルの位置を検出し、台車の動きを命令します。

(2) システムの構成

A 壁面走行台車

写真1は台車の外観です。熊谷組様がいろいろと検討を重ねて作成されたものです。

壁面走行台車の外観
写真1 壁面走行台車の外観

下の方にアンテナを持った送信機が並んでいるのがご覧になれるでしょうか。この台車をひっくり返し、 上の部分を大きく写したのが写真2です。小さい車輪のようなもの(ベアリング)とマイクロフォンが6セット並んでいます。 このセットが打音、収音装置です。

装置は、台車が移動することによりベアリングが転がり、壁面の段差(タイルの目地) で発生する音をすぐそばのワイヤレスマイクロフォンが収音していくという仕組みになっています。

収音された信号は、送信機により地上の受信機に向けて発信されます。

写真3は実際に走行している様子です。

B 台車制御装置

台車を制御するものとして、オートテンション装置、ロータリエンコーダ、ウインチ等を備えています。

オートテンション装置はワイヤーに加える張力を制御することにより台車のタイル面への押し付け力を制御し、 ロータリエンコーダは高さ位置を計測します。

壁面走行台車の上部裏側の写真
写真2 壁面走行台車の上部裏側

使用例
写真3 使用例

台車の動きは、先にも述べましたように、パソコンからの命令により制御されます。建屋のデータをもとに、 窓部で低速走行に切り換えたり、停止位置まで来ると台車を停止させたりするのです。同時に、建屋と台車の高さ等の情報からテンション制御値を算出し、 その値をオートテンション装置に反映させるということも行っています。
以上のようにして台車の自動走行を実現しています。

C 解析装置

写真4の一部が解析装置です。解析装置は受信機、ディジタルシグナルプロセッサ(DSP) およびパーソナルコンピュータから構成されています。

解析装置等
写真4 解析装置等

送信機から送られた信号は受信機によりキャッチされ、DSPに送られます。DSPの仕事の内容は、 予めパソコンから設定されていますので、それに従って、送られてきた信号の分析、診断を行い、その診断結果をパソコンへ送ります。 DSPを使用するのは、これらの仕事を高速に処理するためです。パソコンは、DSPからのデータを位置情報と照らし合わせながら画面に表示し、 ファイルに保存していきます。

周波数分析結果の一例
図2 周波数分析結果の一例

以上がざっとした解析装置の仕組みですが、いわゆる診断の核心ともいうべきDSPの仕事についてもう少し触れておきましょう。

(3) 診断方法

まず、打音装置がタイルをたたいた時に発生する音をFFTアナライザを用いて周波数解析した結果(図2)を見てください。 健全なものと、剥離したもの、さらに剥離したものでもその状態(タイルと下地モルタルが剥がれているのか、 下地モルタルと躯体が剥がれているのか)が違うもので、かなり特性が違うことが見てとれます。

周波数分析するまでもなく、全体の音圧レベルでも判断できるのではないかと思われます。 しかし、建物によりタイルの張り付け仕上げ精度で違いが生じる可能性があるため、 ここでは2つの周波数帯(基準周波数帯と診断周波数帯)の音圧レベル比を比較するという方法を採用することにしました。 健全なものとそうでないものとで、音圧レベル差が小さい周波数帯を基準周波数帯とし、音圧レベル差が大きい周波数帯を診断周波数帯とします。 この2つの周波数帯の範囲やレベル比の判定基準値を調整すれば、建物が変わっても対応していけるでしょう。

実際には次の様に動作します。DSPは、信号レベルを監視しておき、トリガレベルを越える信号が入ってきたら、 FFTポイント数の信号を6チャネル分取り込みます。取り込んだ信号をチャネル毎にFFT分析し、2つの周波数帯の音圧レベルを算出します。 その音圧レベルの比を求め、判定基準値と比べて診断し、結果をパソコンへ順次送ります。これらの処理をほぼ実時間で行います。

さて、トリガ値や2つの周波数帯の範囲、レベル比の判定基準値といった重要なパラメータですが、 これらは診断を開始する前に設定しておきます。予め、パソコンで、人手による診断結果とのキャリブレーションをとるなどして設定し、 ファイルに保存しておいたものです。これらの値は診断結果に大きく影響を与えることになるので、設定には充分な注意を払わなければなりません。

5. 診断結果例

このようにして診断された結果の例を図3に示します。赤い部分は下地モルタルと躯体が剥がれていると診断された部分、 黄色い部分はタイルと下地モルタルが剥がれていると診断された部分です。このような剥離地図として出力されます。

6. 音響診断について

「壁面タイル自動診断システム」を簡単に説明させて頂きました。このシステムでは、ほぼ実時間で診断できるのですから、 剥離している場所にマーキングしたり、応急措置をしたりする装置を付けるなどの発展性も考えられるかもしれません。

また、タイルの剥離診断だけでなく、建物の躯体構造の検査を行うことも可能かもしれません。

診断結果の一例
図3 診断結果の一例