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低周波音の測定と評価


コンサルティング事業部  青木  雅彦


1.  はじめに

  実は今日も低周波音の調査についてのお問い合わせがありました。ある設備機械室から発生しているらしい低周波音で近隣からクレームがあるので、原因をはっきりさせたいとのご相談でした。今週初めには低周波音・騒音・振動調査結果のレポートをある事業場の担当者の方にお送りしたばかりです。先週は出張先で、ある地方公共団体の方から低周波音の対策方法についてのご質問をいただきました。

  また、二ヶ月前には、低周波音が発生するかも知れないとのことで、帯電防止仕様の作業着と安全靴を着用し、ある巨大な船に低周波音レベル計を持って乗り込んでいました。

  気が付くと、最近、低周波音の問題に関わる機会がけっこう多いようです。そこで低周波音の調査と評価についての基本的な項目をまとめてみたいと思います。


2.  低周波音と超低周波音

  人の耳で聞こえる音の可聴周波数範囲は20Hz〜20000Hz(20kHz)と言われていますが、これは子供や若い人の場合で、人は年齢を重ねるにつれ、特に高い周波数帯域の聴力が衰え、聞こえにくくなります。

  また、人の耳は3kHz付近の高音に対する感度が最も鋭く、低音域になるほど感度が鈍く聞こえにくくなります。

  低周波音と呼ぶのは100Hz以下(1/3オクターブバンドで1〜80Hz)の音ですが、人の耳では聞こえにくい20Hz以下の音を超低周波音(infrasound)と呼ぶ場合があります。

図1 可聴周波数範囲と低周波音の周波数帯域
図1 可聴周波数範囲と低周波音の周波数帯域


3.  測定の前に

  低周波音という言葉を聞くと、音の調査や検討を日常業務としている私たちでもちょっと難しい、やっかいなイメージを持ってしまいます。低周波音が問題とされていても、実際は低周波音の調査だけでは不十分な場合があります。というのは、低周波音とされる苦情が発生していても、必ずしも100Hz以下の低周波音が原因だとは限らないからです。

  低周波音の苦情が発生している現場に行って測定してみると、実は苦情の原因が100Hz以上の中低音域の騒音だったと思われる場合がありました。また、低周波音の典型的な物的苦情の一つに窓のがたつきがありますが、地盤の振動が原因でがたつきが発生していた事例もあります。

  そのため、低周波音の苦情が発生していても、まだ状況がよくわからない場合、私たちは低周波音レベル計だけでなく、騒音計と振動レベル計も持って現場に行きます。

  もちろん可能な場合は、苦情を訴えておられる方のお話を注意深くヒヤリングさせていただきます。低周波音の発生源だとされている方のお話も同様です。何とか問題解決のお役に立ちたいと願い、両者のお話をお聞きしながら、一方ではできるだけ先入観を除外し、いろいろな可能性を思い巡らせながら調査の計画を練ります。

図2 低周波音の苦情発生時に考えられるその他の可能性
図2 低周波音の苦情発生時に考えられるその他の可能性


4.  低周波音の測定

  低周波音の測定といっても、音源近傍で測定したり、(規制基準等はありませんが)敷地境界で測定したり、あるいは近隣の民家で測定して音源の稼動状況との対応を見たりするのは一般の騒音測定と同様です。

  しかし、一般の騒音測定と違って注意しなければいけない項目がいくつかあります。

  先ず屋外で測定する場合は、風の影響を受けて風雑音が発生しやすいので注意が必要です。マイクロホンに被せて風の影響を低減するウィンド(防風)スクリーンというカバーがありますが、その効果は限られています。地上に近いほど風速は下がるので、マイクロホンを地面に置いて測定する場合もあるようですが、風の強い日や時間帯は正確なデータが得られないため、日時を改めて測定を実施する必要があります。


表1 マイクロホン用の防風スクリーンの効果
直径 1〜80Hzの効果
9cm 10dB程度
20cm 20dB程度

図3 防風スクリーン(直径20cm)
図3 防風スクリーン(直径20cm)


  また、5Hz以下の帯域を測定したい場合、低周波音レベル計の時定数が1秒だと正確な測定ができない可能性がありますが、時定数を10秒にするとレベルの変動が観測できない場合があり注意が必要です。

  さらに変動の大きい、あるいは衝撃性の低周波音で5Hz以下に成分がある場合、1/3オクターブバンドでは正確な測定ができないため、オクターブバンドで周波数分析を行う必要があります。

  低周波音と同時に騒音計で騒音を測定する場合は、低周波音に合わせて騒音計も1/3オクターブバンドで測定しています。また、振動レベルを併せて測定する場合もあります。

図4 低周波音レベル計 図5 精密騒音計 図6 振動のピックアップ
図4 低周波音レベル計 図5 精密騒音計 図6 振動のピックアップ

  室内で測定する場合は、苦情を訴えている方に低周波音が気になる場所をお聞きして測定点を決めます。

  建物の屋外で測定する場合、反射の影響を考えると建物から3.5m以上離れることが望ましいのですが、物的苦情が発生している場合は、その建物から1〜2m離れた位置で測定します。

  短時間の測定であれば、低周波音レベル計を手で持って10秒間程度の等価音圧レベルを測定します。これは低周波音や騒音が突発的でなく比較的定常な場合です。

  突発的な音の場合はデータレコーダー等を使って発生音を録音し、社内に持ち帰って分析します。

  最近、私たちは夜間に無人で室内と敷地境界の低周波音を連続して測定しましたが、低周波音レベル計の演算機能を使って、夜間連続して10秒間の等価音圧レベル測定を繰り返しながら、測定結果をメモリーに記録しました。この場合、低周波音レベル計のマイクロホンをスタンド等に固定し、屋外の測定点の場合はウィンドスクリーンを取りつけます。

  低周波音レベル計の測定点では、状況によって騒音と振動も測定します。その場合は騒音計と振動レベル計も低周波音レベル計の近くに設置します。

  短時間の測定であれば右手に騒音計、左手に低周波音レベル計を持って、同時に測定を行う場合もあります。


表2 測定機器の測定周波数範囲
測定機器 測定時の周波数範囲
低周波音レベル計 1/3オクターブバンド 1Hz〜80Hz
精密騒音計 1/3オクターブバンド 12.5Hz〜20kHz
振動レベル計 1Hz〜80Hz

5.  測定結果の評価

  騒音計で測定するA特性音圧レベルは、騒音規制値や環境基準、あるいは室内の推奨値、例えば日本建築学会の室内騒音等級などで評価することができるため、とても便利な指標です。

  しかし、低周波音には規制基準等がありません。

  そこで環境省の“低周波音問題対応のための「評価指針」”がひとつの目安となります。

  この指針では低周波音の発生源を工場、事業場、店舗、住居などに設置された施設等の固定発生源に限定していますが、「低周波音による物的苦情に関する参照値」と、「低周波音による心身に係る苦情に関する参照値」が示されています。

  測定結果がこの参照値を超えていると、低周波音が原因で苦情が発生している可能性があり、逆に参照値未満の場合は、地盤振動などについても調査が必要だと述べられています。


表3 低周波音による物的苦情に関する参照値
1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)
5 6.3 8 10 12.5 16 20 25 31.5 40 50
音圧レベル 70 71 72 73 75 77 80 83 87 93 99

表4 低周波音による心身に係る苦情に関する参照値
1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)
10 12.5 16 20 25 31.5 40 50 63 80
音圧レベル 92 88 83 76 70 64 57 52 47 41
G特性音圧レベル 92dB

  この「低周波音による心身に係る苦情に関する参照値」は、文献によると20歳から65歳の20人の一般成人による寝室の許容値についての実験結果から、10パーセンタイル値を推定して設定されています。つまり、許容値がこの値より低い人が10%、高い人が90%という意味ですが、この参照値を測定事例に当てはめチェックした結果、苦情の有無の判別能力が高いと判断されています。

  したがって、上記の経緯を踏まえた上でなら、低周波音の測定結果が許容範囲かどうかを判断する目安としても使えるのではないかと考えられます。


6.  G特性での評価

  20Hz以下の超低周波音については、感覚閾値に基づきISO7196でG特性音圧レベルが規定されています。前述の「評価指針」の中で、「低周波音による心身に係る苦情に関する参照値」にはG特性音圧レベルも示されています。ただし、G特性だけで評価するのではなく、1/3オクターブバンドでも併せて評価する必要があります。

  なお、物的苦情の評価にはG特性音圧レベルは用いないため注意が必要です。


表5 G特性音圧レベルの評価例
G特性音圧レベル 評価
120dB 超低周波音を非常に強く感じる
100dB 超低周波音を感じ始める
睡眠への影響が現れはじめる
92dB 低周波音による心身に係る苦情に関する参照値
(1/3オクターブバンドの参照値と併せて評価する)

7.  1/3オクターブバンドでの評価

  最近私が現場に行った低周波音の測定事例はいずれも苦情に関連しているため、残念ながらここで内容をご紹介することはできません。

  そこで、かなり以前の低周波音測定結果の中のあるデータを用いて、前述の参照値に照らして評価してみます。

  ある港に近い民家から窓のがたつきで苦情が発生していました。図7を見ると、測定値は「低周波音による物的苦情に関する参照値」、「心身に係る苦情に関する参照値」を上回っており、窓のがたつきは低周波音が原因である可能性が考えられます。

図7 低周波音による物的苦情と心身に係る苦情に関する参照値での評価
図7 低周波音による物的苦情と心身に係る苦情に関する参照値での評価


8.  おわりに

  音の周波数が100Hz以下だからといっても、100Hz以上の騒音と比べて急に対策方法が変わるわけではありません。低周波音でも距離減衰はします。

  ただ、周波数が低くなると、外壁や防音カバーに使われる材料の遮音性能は小さくなり、ダクト等に必要な消音器のサイズは大きくなります。また、周波数が低くなるほど、グラスウール等の吸音材の効果や防音壁の効果も小さくなります。

  つまり、周波数が低くなるに従い、音の伝搬経路での対策が難しくなってしまいます。音の周波数が低くなるにつれ、測定だけでなく評価や対策までが難しくなってしまうため、低周波音の問題は確かにやっかいです。

  しかし、私たちは適切な測定方法で影響や原因を調べ、低周波音や騒音の問題を解決するために、今後も技術力を高めてゆきたいと考えています。


参考文献

  1. 環境省:低周波音問題対応の手引書(2004)
  2. 環境省:低周波音の測定方法に関するマニュアル(2000)
  3. 犬飼幸男:低周波音の心身に係る苦情に関する参照値の科学的知見T(騒音制御Vol.30 No.1 2006)


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